• 施設、里親、養親のもとで育ち巣立った当事者のインタビューサイト
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    再婚家庭に育ち、「新しい家族」の中で居場所を失った渡邊翼さん。中学卒業後、ホームレス生活を経験します。保護された彼が行き着いた自立援助ホームは、広大な牧場の中にありました。彼が動物との触れ合いの中で感じたこととは――

     

    「新しいお父さん」と妹

    ――生い立ちについて教えてください

    保育園の頃、横浜に住んでいました。お母さんは離婚して、女手一つで俺とお姉ちゃんを育てていました。昼間働いて、保育園へ迎えに来て、俺らを寝かしつけて、また違う仕事へ。あるとき、お母さんが再婚しました。「この人が新しいお父さん」とお母さんに言われて、名字が変わりました。そして、新しいお父さんの実家がある静岡に移りました。

     

    ――母の再婚についてどう思いましたか

    お姉ちゃんがいつも一緒にいてくれて、何かあったら必ず助けてくれました。だから、お父さんが変わっても気になりませんでした。俺が8才のときに妹が生まれてからは、妹中心の生活になりました。お母さんと新しいお父さんとの間に生まれた妹は、半分は家族だけど、もう半分は違う。この頃から家族がバラバラになっていきました。お母さんとおばあちゃんの仲が悪くなり、引っ越すことになりました。

     

    ――中学時代は

    中2のとき、野球部に入りました。途中入部でしたが、小学生のときに野球チームで一緒だった仲間が受け入れてくれました。上級生に混じって試合に出て、結果を出していました。野球中心の生活だったので、部活を引退してからは何をして良いのかがわからなくなり、グレていきました。

     

    ――不良文化に染まっていったきっかけは

    お父さんの仕事の関係で、小学校の頃に住んでいた家の近くに引っ越しました。学区が違ったけど、学校から電車通学の許可が下りたので、転校はしませんでした。夏休みに引っ越して、小学校時代の友達と久しぶりに再会。みんな俺と同じように、部活を引退してグレていった時期でした。髪を金や茶に染めて、タバコを吸っている人もいました。友達の影響で、タバコを覚えて。夏休みが明けてからは、学校でも吸っていました。「お前らとは違うんだ」と振る舞うことが、かっこいいことなんだと錯覚していました。

     

    ――家族との関係は

    妹が大きくなると、自分が幼かった頃よりも、妹のほうが可愛がられていると感じました。俺とお姉ちゃんはいつも蚊帳の外。家にいてもつまらないので、夜に外を出回るようになり、友達と悪さをしていました。

     

    寒さと飢えに苦しんだホームレス生活

    ――中学卒業後は

    俺は高校に行かなかったんで、働くしかなかった。初めはコンビニでアルバイトをしました。でも、「ちゃんと就職しなきゃ」と思い、鰻屋で働きました。求人誌を見て応募して、「俺をここで使って下さい!」って店長に伝えて。元気なところを買われて雇ってもらえることになりました。一緒に働いているおばちゃんたちも優しくて、楽しかった。だけど、「俺が働いているときに、高校に行ったやつらは遊んでるんだよな」と思ったら耐えられなくなって、辞めちゃったんです。

     

    ――仕事を辞めたあとの家族との関係は

    食事のときに食べることが許されたのは、ご飯とお味噌汁だけ。目の前のおかずに手を付けると、「働いてもいないのに何図々しく食ってんだ」って、ぼこぼこに殴られました。そんな環境だったので、家には居られません。友達の家に泊まって、そこから仕事に行って、また友達の家に帰る生活になりました。ただ、友達の家にも居づらくなって、そこからホームレス生活が始まりました。17才の冬でした。

     

    ――ホームレス生活はどのようなものでしたか

    コンビニでカップ麺を万引きして、別のコンビニでお湯をもらって。今振り返ると、よくそんなことをやっていたなって思うんですけど、当時は必死でした。寒さと飢えで、本当に地獄だった。夜な夜な保育園に忍び込んで、水を飲んで、風をしのげる渡り廊下で寝泊まりしました。そこで過ごしたのは1か月ぐらい。あるとき栄養失調になり、路上で倒れて、救急車で搬送されました。新しいお父さんが迎えに来て引き取られたけど、「もう救急車の世話にはなるなよ」とだけ言われ、家には入れてもらえず、再びホームレスになりました。

     

    ――ホームレス生活を脱したきっかけは

    たまたま声をかけてくれた人が、家でご飯を食べさせてくれました。もしそこで声をかけてもらえなかったら、死んでいた。市役所、児童相談所に連れて行ってもらって、その日のうちにグループホームに行きました。そこではうまくいかず、2か月後に一時保護施設に行きました。3か月過ごした後、別の自立援助ホームに行くことになりました。

     

    動物との触れ合いの中で

    ――ホームでの生活はどのように始まりましたか

    ホームに着いたら、寝泊まりする建物の目の前に鶏舎があって、臭いも凄くて。「えらいところにきたな」と思いました。入ったその日の夕方から、作業に参加しました。鶏舎から卵を回収するのが一発目の作業でした。鶏が産んだ卵は汚れているので、卵拭きをするんです。力を入れすぎると割れちゃうので、絶妙な力加減でやらないといけないんです。

     

    ――ホームの生活で印象に残っていることは

    最も印象に残っているのは、牝牛の出産に立ち会えたこと。ホーム長や獣医と一緒に、子牛が産まれる瞬間を見ることができて、「命ってこういう感じなんだ」と感動しました。名前をつけさせてもらえることになったので、当時好きだったAKBの板野友美から、「友美」と名付けました笑 自分が産んだわけじゃないけど、やっぱり友美のかわいさはひとしお。友美が鳴いていたら心配になるし、「寒くない?」っていつも声をかけていました。それまでは流れ作業でしかなかった動物の世話も、愛情を込めてやるようになりました。放し飼いされている友美の名前を呼ぶと、そばに来てくれるんです。それが本当に嬉しくて。

     

    ――ホームを離れる際にはどのようなことがありましたか

    一人暮らしをするためには保証人が必要です。お父さんは初め、「保証人にはならない」と言いました。でも、児童相談所やホームの人が説得してくれたので、妹を連れてホームに来たんです。妹を「あーちゃん」と呼んでいたんですけど、久しぶりに会ったら接し方がわからなくなっちゃって。お父さんにはぶん殴られて育ってきたので、間違ったことを言わないように、言葉を選んで、敬語で話して。「これって本当の家族じゃないよな」と思いました。でも、動物の世話をしているところを見てくれて嬉しいという気持ちもありました。妹に乳搾りのやり方を見せてあげて、ソフトクリームを食べさせてあげました。お父さんは、最終的には保証人になることを認めてくれたんです。

     

    ――施設を出てからは

    物流関係の仕事をしました。夜は居酒屋で働いて、仕事を掛け持ちしていました。でも寝不足から昼の仕事を遅刻するようになって、夜の仕事もうまくいかなくなって、両方とも辞めてしまいました。新しい仕事は、湘南で新聞配達。その後、都内、水戸でも新聞配達をしました。水戸で働いていたときの同僚の紹介で、去年から千葉で訪問介護の仕事をしています。

     

    ――これから実現したいことは

    施設で動物の世話ができるようになったので、飼育員への憧れがあります。もう一つは、児童養護施設で生活している子どもたちのお手伝いができたらいいなと思っています。

     

    ――施設で生活している子どもたちにメッセージを

    WANIMAというアーティストの「ともに」という曲に、「どれだけ過去が辛くても/進め君らしく心躍る方」という歌詞があります。それが一番、自分にストレートに入ってきた言葉です。ホームで暮らしている子たちにも、そうあってほしいなと思います。

     

    5年ぶりにホームを訪問

    インタビューのあと、彼はホームを5年ぶりに訪問しました。

     

    ――5年ぶりの訪問はいかがでしたか

    職員さんの顔を見たら、当時のやりとりを思い出しました。生活していたときと、5年経った今とでは、見え方が違います。当時、職員さんはみんな敵だと思っていました。「何偉そうなこと言ってるんだ」「どうせ俺らのことなんてわからない」という気持ちでした。でも、当時言われたことの一つひとつがすごく大事なことだったんだなって、後になってわかりました。顔を見せることができてよかったです。

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    コメント一覧

    返信2017年4月8日 2:40 PM

    masami hori23/

    自分自身のアイデンティティを何処に求めるか?親に否定された子どもは手本を親以外に探さなければならない。探せなければ自分を肯定できず、親を含め他の人間への怒りを抱えて生きていくしかない。親切にしてくれる人間がいても、信頼した人間に裏切られた記憶があると、信じきれなかったり、全面的に依存しようとして、いい関係を作るのが難しい。周りからはひねくれていると思われ、孤立していくことが多い。彼にとっては動物との信頼関係が大きい。そして人を信じる純粋さが残っていたのはすごいと思います。

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